仙台高等裁判所 昭和28年(ネ)126号 判決
控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、
控訴代理人において、
(一)、本件牧野の買収は自作農創設特別措置法第四十条の二第一項第三号に基くものである。
(二)、本件買収は被控訴人の共有持分の一部を買収したものであつて、他の共有者の共有持分は買収されなかつた。
(三)、本件牧野七十九町一反八畝十歩は被控訴人ほか八名の共有者が各その持分に応じて採草して来たものである。
(四)、本件買収計画樹立の日は昭和二十三年十月二十六日で、又買収の時期は同年十二月二日である。と述べ
被控訴代理人において、控訴人の右主張事実中(一)乃至(三)は争わないと述べたほかは原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する(立証省略)。
三、理 由
岩手県九戸郡種市町第三地割八十四番原野七十九町一反八畝十歩は被控訴人と訴外竹根甚三郎、尾前精一、岡本喜一、高屋敷確蔵、岡本石太郎、岡本石雄、岡本熊吉及び岡本秀雄合計九名の共有に属し、その共有持分は被控訴人が二十四分の十六、他の八名はいずれも二十四分の一宛であつたこと、右原野について以上の各共有権者は各自その持分に応じて使用収益してきたものであること、岩手県農地委員会は種市町農地委員会の権限を代行して昭和二十三年十月中、第九期牧野買収として前記原野に対する被控訴人の共有持分二十四分の十六のうち二十四分の九・六について買収計画を立ててこれを公告し法定の期間関係書類を縦覧に供したこと、被控訴人が昭和二十四年二月九日右買収計画につき異議の申立をしたのに対し岩手県農地委員会は昭和二十六年七月一日異議申立却下の決定をし、被控訴人が更に同年八月三十日控訴人に訴願を申立てたところ控訴人は昭和二十七年二月二十五日訴願棄却の裁決をし、前記買収計画を認可した上被控訴人の被買収持分につき同年三月五日附岩手リ第六四三号買収令書を発行し同年四月二十七日これを被控訴人に交付したことはいずれも当事者間に争がない。
よつて、共有持分自体を対象とする本件買収処分は買収地域を特定し得ない違法のものであつて当然無効であるとする被控訴人の主張について考える。
いうまでもなく共有とは二人以上の者が一個の所有権を量的に分有する状態であつて、各共有者がその分有する割合(持分)に従つて分割された分数的一部の所有権(共有権又は持分権)を有する法的形態であるから、各共有者の有する持分権は共有の目的物全部に及ぶと共に、その権利は他の共有者の持分権によつて量的に制限せられることは当然である。従つて土地を目的物とする共有の場合でも各共有者は共有地全部につきその持分に応じた使用収益をすることができるのであつて、持分権の効力は共有地の全地域に及ぶものであり、従つて共有地が特定される限り持分権の及ぶ範囲も自ら明白であるということができる。しかし共有の目的たる土地が分割されない限りは各共有者が単独に(他の共有者から掣肘を受けないで)支配し得る地域というものは法律上存在し得ない筋合であるからして、各共有者の持分に応じた単独支配地域を確定することはもともと法律上不能のことに属する。故に旧自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)によつて買収し得る農地或は牧野等は、政府及び政府から売渡を受けた者において単独に所有権を行使し得る土地でなければならないものとするならば、結局共有地の場合には、共有者全員の持分を尽く買収するならば格別、共有者の一部についてその持分を買収することは許されないとする原判決の結論に到達せざるを得ない。
しかしながら前に述べたように各共有者は共有物の全部につきその持分に応じて使用収益することができると共に(民法第二四九条)、何時でも分割を請求することができ(同法第二五六条)これによつて少くとも共有物の一部につき単独所有権者たり得る可能性も存するのであるからして、共有持分を買収することが自創法の意図するところに副はないものということはできない。尤も共有物の管理に関する事項は、共有物に変更を加える場合の外各共有者の持分の価格に従い、その過半数を以て決めなければならないけれども(同法第二五二条)、これがために、共有持分の買収が自創法の趣意に反するものとすることは早計である。もし持分の買収が許されないとすれば、共有者の一人がいわゆる不在地主であつてもその持分を買収することができないこととなるし、また法定の保有面積を超過する広大な農地或は牧野等を有する者に対しても、それが小作地たると自作地たるとに拘らず、いやしくも共有地である限り、偶々共有者の全員につき買収の要件を具備するため全員の持分を尽く買収し得る特殊の場合を除いては、ついに買収することができないというような不合理な結果を招来することとなり、かくては自創法の所期するところに著しく背馳するものとしなければならない。即ち共有持分と雖も法定の要件を充足する限りこれを買収し得るものと解することこそ、むしろ自創法の狙いに合致するものと解するのが相当である。
而して或る者の有する農地又は牧野が法定の保有面積を超過するかどうか、及びその超過面積如何をきめるに当つては、共有地についてはその面積を共有持分に按分して算出した面積を基準とするほかはないものと解すべきであるが、被控訴人外八名の共有し自作する本件牧野の持分買収についても、保有面積超過部分を右の方法により算出した右牧野に対する被控訴人の持分二十四分の十六のうち二十四分の九・六を超過分として買収すべきものとされたことは本件弁論の全趣旨に徴しこれを窺知するに十分であり、この被買収部分が被控訴人の自作牧野の保有面積超過部分にあたることは被控訴人もあえて争わないところである。されば自創法第四十条の二第一項第三号に基いて行われた本件の持分買収は違法であるとはいえず、況やそれが当然無効であるとする被控訴人の本訴請求は失当とせねばならない。
以上と異る見解のもとに被控訴人の請求を認容した原判決は失当であつて本件控訴は理由がある。
よつて民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 谷本仙一郎 檀崎喜作 沼尻芳孝)